鐘の音が空に、これからを祝うようにとやさしく鳴り響く。
                  祝福の花びらが、空中を舞う。
                  それは散りばめられた紙ふぶきで、桜色の美しい桜の花びらのようだった。
                  空に散りゆく花のなかに、君は立ってなんていなかった。
                  その春の中で、僕はふとある日のことを思い出した。


                  ゆるやかな新緑の中、風が息吹きだした木の葉を揺らしていた。
                  その風が髪を揺らして、どこか遠いところへと駆け抜けていく。
                  風は誰よりもはやく駆けぬけ、掴むことすら出来ない。


                  ハアハアと息を切らして坂道をのぼっていく。
                  「セシル、平気か?」
                  「っ、ふぅ。うん、平気だよ」
                  ふたりで抜け駆けするのは、まだ何度目か。
                  「怒られるかな」
                  「ああ」
                  怒っているであろう大臣の姿を想像して、ふたりでクスクスと笑いあう。
                  それからそっと手をつなぎ、坂道をかけていく。


                  花曇りの空に、まだ少しだけ冬の寒さが残るような風が吹いた。
                  「セシル」
                  彼が唐突に口を開いた。
                  その瞬間に、ひらりと一枚薄紅色した桜の花びらが舞った。
                  「おまえは何になるんだ?」
                  その時の自分はまだよく分かっていなかった。


                  それがどうなるかなんて。


                  「俺は父さんみたいに竜騎士になろうと思う」
                  彼がどの道をえらぶか、なんであれ祝福しよう、と思った。
                  「そっか、カインはすごいね。夢あるし」
                  花曇りの空は、いつしか色づき始めてうすい氷色をしていた。


                  しずかな街の音だけが流れていった。
                  自分たちしかいないと錯覚させるような、物静かな空間。
                  でもいずれ日は暮れて、城に帰らなければいけない。
                  お説教やお風呂も、ある。
                  ずっとこの場所にいる訳にはいかなかった。




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