「シャワー、浴びてくるよ」
                  「ええ、いってらっしゃい」
                  逃げるように、浴室へと向かう。
                  湯気の立ち込める浴室に、慣れない香りがしていた。


                  手にとってみると、爽やかで甘い匂いがした。
                  「ん・・これ、カインのか」
                  透明な容器に入っているシャンプーだった。
                  きっとこの間ここに来た時に忘れていったんだろう。


                  そう思って、そのシャンプーの香りを嗅ぐと
                  僕はその匂いに惑わされたかのように
                  無性に彼に会いたくなった。


                  そのシャンプーの匂いを少し吸って、僕は浴室を出た。
                  ベッドの上に、疲れてしまったのであろう
                  彼女が、すやすやと寝息を立てていた。
                  湧き上がる欲求に耐えられるはずも無く
                  おやすみ、と彼女に囁き、僕は静かにドアを閉めた。




                  コンコン、と扉を叩く音がした。
                  こんな時間に騒々しい、と思いつつドアを開けると
                  そこには愛おしい人物が立っていた。


                  「これ、忘れ物」
                  「ああ。すまない」
                  よく見ると、それはセシルの部屋に忘れてきたシャンプーだった。
                  「この間から無いと思っていたら、お前の部屋だったか」
                  わずかにセシルから、そのシャンプーの香りがした。


                  爽やかで、すこし甘みのある彼には似合わない香り。
                  けれどそんな香りが、妙にふわりと香ってドキリとした。
                  今すぐ抱き寄せたい、とそう思う。


                  けれど、彼の表情は曇っていた。
                  水底のようなブルーアイに、立ち込める憂いは濃紺。
                  「何かあったのか?」
                  その質問に応答はなく、彼は相変わらずの曇り顔で立ちつくしていた。
                  「きみの部屋に、来たくなって」


                  銀色の髪を伝うしずくが、風呂上りを予想させた。
                  ぽたり、ぽたり涙のように髪を伝うしずく。
                  妙に寒そうに感じられたセシルを、カインはふわりと抱きしめた。
                  いつもと違う彼の香りがした。




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