「おい、リディア。いるか?」
向こうから聞こえたのは、聞きなれた王子のこえ。
「・・・なによ」
赤く腫らした目を、誰にも見せたくなかったわたしは
ドア越しにすこしだけ不機嫌なこえを出してみた。
「開けてくれ」
「ヤダ。女の子の部屋に、こんな時間に失礼ね」
時計の針は、午前零時を指していた。
シンデレラの魔法は、この時間に消えてしまう。
「何だ、どーせお前が泣いてるんじゃいかと思ってきてやったのに」
少しだけ、安堵したようなこえが聞こえた。
「べつに、泣いてなんかないもん。ヘーキよ」
偽ったりしたら、悲しむよ?
自分の言葉がフラッシュバックしたけれど、気にしない。
「じゃあ開けろよ。泣いてなねぇなら、赤い目なんてしてねぇだろ?」
そういうことには、すぐに気づくくせに。
ひとり、悪態をついて仕方なしにドアを開けた。
ほら、やっぱりな。
なんていうかと思ったら、彼は私にワインの瓶を投げてきた。
「ヤケ酒だ、ヤケ酒!」
すんでの所でキャッチし、割りそうになったその瓶を見る。
よく見れば細くなった首の部分に、緑色のリボンがしてあった。
「年代物じゃないの?」
「オレ様がその気になれば、そんぐらい手に入る」
にかっと笑うと、彼はふぅ、とため息をついた。
「?」
不思議そうな目で、彼を見ると視線がぶつかった。
「ん?」
「ううん。なんでもないの」
助けて、なんてうったえてしまったように感じて
すっと目線を外してしまった。
けれど、訪れる沈黙に勝てなくなって口を開いたのはわたし。
「ローザみたいになりたいの。きらきら輝いてて、笑顔も姿も全部きれいで。
ふわふわ揺れる、ウェーブのかかった髪とか」
話し途中には一言も言わなかったエッジが口を開く。
「お前は、お前のままでいい。ローザはローザ、お前はお前」
うん、知ってるんだ。でもね、キレイな人には誰だってあこがれるもの。
「お前がローザみたくなっちまったら、俺が困るんだっての」
どういう意味なんだろう?
でも、きっとうれしいことなんだろう。体がそう教えてくれる。
「うん、ありがとう」
そう言ったときに、自然な笑顔ができたから。
「ほら、笑ってろ。お前は笑ってればいい」
な、とエッジも一緒に笑ってくれた。
「うん、やっぱり王子様はすごいね」
ふふ、と笑うと彼はまあな、と誇らしげに胸を張った。
「泣いてるときは、俺を呼べばいい」
「うん」
「笑いたいときも、俺を呼べばいい」
「うん」
やさしいやさしい王子様の魔法が、いつまでも頭に残るうちに
ベットにもぐりこもうとした。
「んじゃ、俺は戻るわ」
その声をもっと聞きたい、と思った心よりも声がすばやく動いた。
「行かないで」
と、そうやって。
驚いたように振り向く彼に、わたしは言う。
「寂しいときも、エッジを呼べばいいんでしょう?」
まだベッドに入ったって、すぐに眠れなさそうなときも。
「アホ。なにしですかわかんねぇぞ?お前と違って、オトナだからな」
「子供じゃないもん。わたし」
「だから、そう言う問題じゃねーっての」
口ではそういいながら、ちゃんと戻ってくる王子様が好きだった。
「おやすみ」
「ああ」
今度こそ、貴方の魔法が残ったまま。
あたたかな眠りへと、いざなわれるままに。