「カイン?」
                  振り向くと其処には、狐の面に金色の髪が揺れている。
                  狐の面の男は、セシルに向かい、手招きをする。
                  「ついてこいって?」
                  コクリ、と狐がうなずく。
                  セシルは狐に化かされたような気持ちで、彼についていく。


                  「カイン?どうしたんだ?」
                  狐の面は、いつの間にか顔を覆わずにいた。
                  「いや、少し歩きたかった」
                  そう答えるカインに、ふぅんと小さな相槌をうつセシル。
                  「ユカタ、美しいな。お前によく似合ってる。さすがバロン王だ」
                  「で、でもこれ、女物だし。カインのほうがよくお似合いだよ」
                  いきなり出た賞賛の言葉に、セシルは驚き頬を染める。
                  「いや…この髪によく映える」


                  さらり、とカインの指がセシルの髪を梳いた。
                  風に、ふわりとゆれるセシルの髪から、ほのかな香りがする。
                  「シャンプー変えたのか?」
                  「あ、ああ…ちょうど、切れてたんだ。いつものやつ」
                  そろそろ買いに行かないとね、とセシルははにかむ。


                  それからすっと、カインはセシルの髪に口付けを落とす。
                  「わ、か、カイン!な、なにし」
                  なにして、とセシルが言い終わる前に唇を閉ざす。


                  「!」
                  空に、ドーン・・と花火がきらめいた。人々は上空を眺めている。


                  人ごみの中で、そっと交わした口付け。
                  「・・・バカ。ローザに見られたらどうするんだよ」
                  「その時はそのときだ、な」
                  そう言ってカインは空に咲く大きな花を見つめる。


                  「いつまでも、ずっとお前と…
                  ドーン、ぱらぱら、花は一瞬で散りゆく。
                  「え?」
                  「いや、なんでもない」
                  花火の音にかき消された言葉を、いつしか言えれば。
                  それからしばらくして、太鼓林の音が聞こえた。