卑怯だろうか、と思った。
                  失恋したばかりの心に付け入るのは。


                  しかし、恨むべき相手は彼でもないし。
                  まして、その相手の彼女だというわけでもなかった。


                  愛しい人が泣いているときはどうすればいい?
                  なにか、してあげなくてはと体が勝手に動く。


                  「それ、緑色のリボンをつけてくれ」
                  かしこまりました、と店員が言う。
                  少しでも気晴らしになれば、と思う。


                  「べつに、泣いてなんかないもん。ヘーキよ」
                  きっと、嘘なんだろう。そう感じた。
                  声にすこし、涙が混じっているように感じられたからだった。
                  けれど、泣くなと言ってしまっても、彼女が泣いている理由は俺にはない。
                  廊下ですれ違った彼に理由はある。
                  その涙を、俺は止めさせるだろうか。


                  部屋に入って、先ほど買った酒を投げてやった。
                  泣いてただろ?などと聞くべきじゃない。


                  けれど、お酒のようなモノでは意味がない。
                  小さくため息をつくと、視線が合ってしまう。
                  それからはローザみたいになりたいという。
                  もしかすれば、彼女みたいになれば振り向いてくれると思ったからだろうか。
                  自分に魅力がないから、とオコサマな考え方をしている奴には
                  少しだけ素直な言い回しで伝えてやった。


                  けれど、やはりどこまでも子供だった。
                  純粋だよな、などと可愛らしさに浸っていると
                  彼女は眠そうに欠伸をした。


                  そろそろ戻るか、と思った矢先に 行かないで の声がした。
                  ああ、どうしてこんなに純粋なんだろう。
                  欲求してしまいそうな気持ちを抑えて
                  おやすみ、と優しく言ってやった。


                  幸せそうな寝顔をしていた彼女を見つめて安堵した
                  俺もまだまだコドモだと思う。


                  本当に俺は卑怯かもしれない。